企業が事業戦略を立案する際、自社の立ち位置を調べるために業界動向調査がしばしば行われる。
それ以外にも、転職を検討する際に有望な業界・会社を知るためにも、業界動向調査が行われる。
しかし、業界動向調査は多くの場合、正しく行われていない。手に入る情報を手当たり次第に集め、結局ありきたりなまとめ方になってしまうことがよくある。
それは、業界動向調査の際、目的・仮説の検討と計画の立案が不十分であるからだ。なぜ不十分になってしまうのか?
それは、そもそも業界動向調査の全体的な流れがわかっておらず、適切な情報源や分析手法の選択ができていないからだ。
本記事では、業界動向調査の流れ、情報源の選び方、分析手法の特徴を紹介する。
実際の業界動向調査の事例も紹介するよ。
業界動向調査とは?
業界動向調査とは、特定の業界や国における最新の動向や変化を知ることだ。
企業は他社や市場動向を踏まえ、自社の事業戦略に役立てることができる。
一方、個人は転職や日々の自己研鑽において、適切な選択を取れるようになる。
関連記事:業界動向調査とは?調べ方と個人の成長への活かし方を解説
業界動向調査の流れ
早速、業界動向調査の流れを見ていこう。
全体の流れ
業界動向調査の全体的な流れは以下の通り。
冒頭でも述べたように、「目的・仮説の検討」と「計画の立案」が一番大切。
以降の項で、それぞれの進め方を詳しく見ていく。
目的・仮説の検討
業界動向調査を始めると、いきなり情報収集に取り掛かりたくなる。でも、まずは、調査の目的を明確にすべき。
理由は、目的によって調査する内容が変わるからだ。なぜ調査をするのか?と問うことで、目的を明確化できる。
目的検討の例
背景:上司から転職者数の動向を調べるように依頼を受けた。
目的の例1:人材紹介業への新規参入の判断材料にするため。
目的の例2:自社の人材紹介業を評価するため。
例1の場合、人材紹介業が有望な市場か判断するために、将来的に転職者数がどのように推移するのか調べる必要がある。
一方、例2の場合、市場に対する自社の評価をするために、今までの転職者数の推移を調べる必要がある。
このように、目的によって調査内容が変化する。
目的を設定したら仮説を検討する。どんな答えが得られるか仮説を立てることで、必要な情報が明確になる。また、意図する答えと異なる時、調査を進めながら軌道修正できるようになる。
仮説検討の例
目的:人材紹介業への新規参入の判断材料にするため。
仮説の例:最近、「転職」という言葉を聞く機会が増えてきたため、転職者数は将来的に増加すると予測される。
このように、仮説を立てることで、年ごとの転職者数の情報が必要とわかる。
上記のように、仮説はグラフや模式図で示すと、必要な情報の解像度が上がるよ。
計画の立案
仮説まで立てることができたら、業界動向調査の計画を立案する。
具体的には、いつまでに、何をどう集めるか、どう分析するかを決める。
情報は集め出すとキリがなく、永遠に終わらない。だからこそ、予め”いつまで”にを決めて取り組むことが大切。
計画立案の例
例:1週間後に報告の機会がある。報告の2日前に上司のレビューを受けたいため、資料まとめの時間を除き、4日で調査を終える。
”何をどう集めるか”、”どう分析するか”については、後述の”情報源の選び方”、”分析手法の紹介”で紹介する。
情報収集、データの分析、示唆出し
ここからは計画に沿って、業界動向調査を進めていく。
ポイントは、計画を修正しながら進めること。調査を進める中で、仮説と異なる結果が得られることはよくある。その時、仮説を修正し、軌道修正しながら進めることが大切だ。
仮説の修正の例
最初は転職者数が単純に増加すると考えていたが、「労働人口の減少」により転職者数が減少する可能性があることに気が付いた。
→労働人口の減少も調査対象に入れる。
具体的な情報収集、データの分析、示唆出しについては、後述の”情報源の選び方”、”分析手法の紹介”で紹介する。
仮説を修正する際は、最初に設定した目的との整合性も確認しよう。
情報源の選び方
ここでは、情報源を選ぶ3つの指標を紹介した上で、実際に情報源を比較する。
情報源を選ぶ3つの指標
情報源を選ぶ指標は以下の3つ。
- 体系化:情報が体系化されて整理されているかどうか。調査対象の分野にどのくらい詳しいかによって判断する。
- コスト:情報収集にかかるコスト。調査に投入できる金額によって判断する。
- スピード:情報が得られるまでにかかる時間。納期に対する残りの時間によって判断する。
これらの指標を使いつつ、目的と計画と照らし合わせて、情報源を選定する必要があるね。
情報源の比較
情報源を選ぶ3つの指標を使って、情報源を比較しよう。
Webサイトやニュース記事は、現代はインターネットが普及したこともあり、ネットワーク環境さえあれば無料で、すぐに調べることができる。ただし、信憑性の低い情報も多く存在するため、発信者や論拠の確認が必須となる。
公的調査と民間調査は、お金と時間がかかるのがデメリットだが、体系化された比較的信憑性の高い情報が得られやすい。ただし、公的調査に関しては、政府が毎年発行している白書など、お金と時間をかけずに入手できるものもある。
文献調査は、あまり詳しくない分野で体系的に情報が欲しい時に適している。ただし、情報の鮮度が低く、誤った情報を含むこともある。
アンケート調査、フィールド調査、インタビューは、既存の情報を探すのではなく、新規の情報を作ることになる。対象者や質問方法等、やり方の工夫次第で、意図する情報を得られることもあれば、全く意図しない結果に終わってしまうこともある。
各情報源の特徴をよく理解した上で、情報源を組み合わせながら活用するのが有効だ。
いずれの情報源を活用するときも、情報の新しさと信憑性は確認する必要があるね。
分析方法の紹介
得た情報を分析することで、どういう行動を取るべきかという示唆出しができる。
分析による示唆出しの例
例1:転職者数が今後増えると見込めるため、人材紹介業に新規参入する。
例2:転職者数が減少傾向だったが、自社の転職関連事業の売り上げが伸びていたため、その事業を評価する。
分析方法は数多く存在するが、ここでは覚えておくと便利な”4つのフレームワーク”と”フェルミ推定”を紹介する。
覚えておくと便利な4つのフレームワーク
フレームワークとは、情報整理の方法をパターン化したもの。フレームワークを上手く組み合わせることで、納得感のある示唆を出すことができる。
3C分析
事業戦略立案の3つの基本要素(Company:自社、Customer:顧客、Competitor:競合)を分析する手法。
競合に対する自社の立ち位置、顧客ニーズに対する自社の事業をそれぞれ比較する。
SWOT分析
自社の内部環境と外部環境を4象限(Strengths:自社の強み、Weaknesses:自社の弱み、Opportunities:外部環境における機会、Threats:外部環境における脅威)に分解し整理する手法。
内部環境と外部環境それぞれにおける強み弱みを明確にした上で、事業の方向性を検討する。
5Force分析
自社の事業に影響する5つの要素(競合企業、新規参入企業、代替品の脅威、供給者の交渉力、顧客の交渉力)を整理する手法。
事業環境を明確にすることで、競争の激しさや収益性を検討する。
PEST分析
外部環境を4つの要素(Political:政治的要因、Economic:経済的要因、Social:社会的要因、Technological:技術的要因)で評価する手法。
外部環境を捉えることで、トレンドや規制動向の理解に役立てる。
フレームワークは目的に合わせて、組み合わせて使うと効果的だね。
フェルミ推定
フェルミ推定とは、情報が少ない際に、仮定を置いて大まかな傾向や規模を把握する手法のこと。
業界動向調査だけでなく、プロジェクト管理や研究など、様々な分野で応用されている。
フェルミ推定のコツは、とにかく分解すること。例を見ながら手順を確認してみよう。
フェルミ推定の例
背景:人材紹介業に参入すべきか判断するため、10年後の転職者数を推測したい。
手順1:算出式を設定する。
10年後の転職者数
=10年後の労働人口 ×10年後の転職者数の割合
=10年後の労働人口 ×(現在の転職者数の割合+10年後の転職者割合の増加)
手順2:算出式に当てはめる数字を調べる。
労働人口:6772万人(2035年)※1
現在の転職者数の割合:4.4%(2023年)※2
10年後の転職者割合の増加:4.1%(2035年)※3
※1 令和6年版高齢社会白書より引用。
※2 総務省統計局の労働力調査(詳細集計) 2023年(令和5年)平均結果より試算。
※3 2013年~2023年までの転職希望者の増加率に合わせて、今後10年間、毎年転職者数が増加すると仮定して試算。
手順3:算出式に数字を当てはめる。
10年後の転職者数
=10年後の労働人口 ×(現在の転職者数の割合+10年後の転職者割合の増加)
=6772[万人] ×(4.4%+4.1%)
=572[万人]
手順4:示唆出しをする。
現在の1年間の転職者数は328人である。
10年後は転職者の割合が、現在より1.7倍に増加することが見込まれるため、人材紹介業界に参入するべきである。
実際にフェルミ推定を用いて、人材紹介業の市場規模を推測した結果は関連記事:【勝手に解説】人材紹介会社とは?人材紹介業の市場規模予測を参照。
このように、フェルミ推定を利用することで、今ある情報から将来を推測することができる。
業界動向調査は仮説・計画が大切
本記事では、業界動向調査の流れ、情報源の選び方、分析手法の特徴を解説した。
業界動向調査は「目的・仮説の検討」と「計画の立案」を適切に行うことが大切である。
また、情報源や分析手法の特徴と違いを理解することで、効率的に調査を進めることができ、目的に沿った結果を得ることに繋がる。
要所を意識しながら、業界動向調査を進めよう。
業界動向調査は、全体の流れを理解することが大切だね。
ではまた!