日本では、全就業人口の約1割にあたる554万人もの人が自動車産業に携わっている(一般社団法人 日本自動車工業会, 『基幹産業としての自動車製造業』)。
新聞やニュースで自動車業界が取り上げられない日はなく、最近だと『ホンダ、EV・車載ソフトに10兆円 投資計画2倍に』『トヨタやホンダ、型式指定で不適切事案 内部調査で確認』などが日経新聞の朝刊1面で取り上げられていた。
本記事では、社会人の教養として欠かせない自動車業界のトレンド(CASE)について解説。自動車業界のトレンドを抑え、自動車業界の魅力を学ぶ。
自動車業界の動向を理解して、新聞やニュースを深く理解できるようになろう。
CASEとは?
CASEとは、自動車業界における4つのトレンドの頭文字を取った言葉。
C・・・Connected(つながる)
A・・・Autonomous(自動運転)
S・・・Shared/Services(シェア&サービス)
E・・・Electric(電動化)
このキーワードは、2016年のパリモーターショーにて、ダイムラーが提唱したのが始まり。
トヨタ自動車の豊田章男氏の言葉である「100年に一度の変革期」を迎える自動車業界では、このCASEが主要なトレンドとなっている。
以降、それぞれのトレンドについて深ぼって見ていく。
業界への影響や実現の課題にも注目してみよう。
Connected(コネクテッド)
コネクテッドとは、自動車が様々なモノとインターネット接続して、双方向で情報のやり取りをすること。
コネクテッドの代表的な考え方であるV2Xを例に、事例と自動車業界への影響を見ていく。
V2Xの観点では情報に対する車両の応答が大切
V2Xとは、車両と様々なモノの間で通信や連携を行う技術のこと。
Xは車が繋がるモノを意味しており、具体的にはV2V、V2I、V2P、V2Nなどがある。
現時点では、車が一方的に情報を受け取るだけのサービスが大半。仮に車の情報を使うとしても位置情報程度である。
例えば、V2Iについては、車の位置情報から、各車両に渋滞情報を送信するだけ。今後は、そもそも渋滞が起こらないように、それぞれの車の経路や速度を変える未来がくる可能性がある。
情報の送受信だけでなく、情報を踏まえた自動車の応答が今後の課題だね。
コネクテッドは組み合わせる情報が大切
コネクテッドの事例として、Go Payを紹介。
Go Payは、利用者とタクシーの位置情報を利用してタクシーを配車し、決済手続きなしでタクシーを利用できるサービスのこと。
Go Payを手掛けるGO株式会社は2024年に上場を検討するほど規模を拡大しており、特にGo Payは2024年時点で9,000社以上の法人企業が利用登録している。(参考資料:株式会社GO, 『当社の株式上場の準備の開始に関するお知らせ』)。
会社情報を登録しておけば、経費申請も自動で行うこともできる。
位置情報や資産情報と上手く連携することにより、タクシー利用で時間のかかる配車と決済を効率化したのが最大のメリット。
車をどのような情報と組み合わせ、どのようなサービスを提供するのかが大切な視点だね。
自動車メーカは水平分業化が加速する
V2Xによって大きく変化するのは、企画~販売までのプロセス。
今までの垂直分業型から水平分業型への移行が必要になっていく。
垂直分業型とは、企画~販売までのプロセスにおいて、メーカや車種に合わせて整合性・最適化をすり合わせること。
水平分業は、企画~販売までのプロセスにおいて、メーカや車種を跨いで整合性・最適化をすり合わせること。
(参考文献:ネクスティエレクトロニクス, 『コネクテッドカー戦略 日系自動車メーカー 2030年、勝者の条件』, 日経BP社, 2018/8/7.)
コネクテッドを実現する、言い換えると、たくさんのモノと繋がるには、予め通信規格の統一化や部品の共通化をしておく必要がある。
メーカや車種跨ぎで同じ部品が使われるということは、使われる部品と使われない部品が明確に分かれるということ。
今後、自動車部品メーカの淘汰が進むことが予想される。
厳しい環境だけど、シェアを勝ち取れば更なる事業拡大を見込める。そういう意味では、チャンスと言えるね。
Autonomous(自動運転)
自動運転とは、車がドライバーの操作なしで自律的に運転する技術のこと。
ここでは、自動運転の規制動向、国際的な市場動向、自動車の価値の変化を見ていく。
自動運転の法規制の改訂が進む
自動運転には、レベル0~6まで6段階ある。
自動運転には、レベル3と4の間に大きな違いがある。
レベル3は人がただちに自動車を止められる状態にいる必要がある。
一方、レベル4は運転に関する操作は全てシステムが実施する。
日本においても、2023年4月に法改正があり、自動運転レベル4が解禁されたが、まだ商用化には至っていない。
自動運転は、規制緩和に合わせて、どんどん技術レベルが上がってきているね。
海外では自動運転の商用化が進む
海外では、自動運転レベル4の商用化が進んでいる。
アメリカでは、Google(グーグル)から分社化したWaymo(ウェイモ)が2018年に初めて世界初の自動運転タクシーを商用化。2019年からは運転手なしの自動運転レベル4も達成している。(参考文献:Reuters, 『Waymo unveils self-driving taxi service in Arizona for paying customers』)
中国では、中国版グーグルとも呼ばれる百度(バイドゥ)が2022年には完全無人タクシーの商用サービスを開始した。(参考文献:日経ビジネス, 『中国初の「完全無人タクシー」に試乗 百度の自動運転の実力は』)
日本は海外より遅れを取っているが、トヨタが2021年東京オリンピックでレベル4の実証を行ったり、ホンダが2026年に東京都で無人タクシーを実用化することを発表したりしており、レベル4に向けた取り組みは加速してきている。
(参考文献:日本経済新聞, 『トヨタ、東京五輪で専用EV 移動革命をアピール』、日本経済新聞, 『ホンダとGM、無人タクシー先行 人手不足解消の切り札』)
海外では、IT企業が自動運転の商用化に取り組む事例が多いね。
将来は自動運転車向けのサービスが重要
自動運転には、様々な業界の技術が必要になる。
ここで注目したいのが、自動運転を成り立たせる技術だけでなく、自動運転車向けのサービスも重要になってくること。
例えば、自動運転が実現すると、人は移動している間、車を運転する必要がなり、暇を持て余すことになる。余暇時間を快適に過ごすために、映画やゲームなどのエンタメコンテンツが車の価値の1つとなる。
これは自動車を単なる移動手段ではなく、サービスとして捉えるMaaSの考え方とも一致する。
未来を夢見ながら仕事ができるのも、自動車業界の魅力だね。
Shared/Services(シェア&サービス)
シェア&サービスとは、複数の人が車を共有して利用するサービスのこと。
ここでは、シェア&サービスの分類、メリットとデメリット、国内のライドシェア動向を見ていく。
ライドシェアの分類
シェア&サービスは、大別するとライドシェアとカーシェアリングの2つに分けられる。
カーシェアリングと比較して、ライドシェアはそこまで普及していない。
ライドシェアをさらに分類すると、以下の通り。
ライドシェアの代表例はタクシーだが、今後普及していくためには、利用できる車両をタクシー以外の私有車にまで広げていくことが必要。
また、ライドシェアは、海外でも法規制の観点から苦戦しているのが実態。例えば韓国では、タクシー事業者の大規模デモにより、ライドシェア事業を中止するなど、なかなか普及が進んでいない。(参考文献:国立国会図書館, 『【韓国】ライドシェアに係る法改正と今後の在り方をめぐる議論』)
日本だけでなく、海外でも苦戦しているとなると、ライドシェアの難しさがよくわかるね。
ライドシェアはメリットだけではない
ライドシェアのメリットとデメリットは以下の通り。
ライドシェアはマイカーさえあれば始められる、利用者の費用負担を軽減できるといったメリットがある。
一方、大きなデメリットもある。特に利用者側のトラブルについては、運転手が乗客に性的暴行を加えたり、殺害したりする事件も後を絶たない。
(参考文献:日本経済新聞, 『ライドシェアでの性的暴行、3000件 ウーバー報告書』、日本経済新聞, 『中国・滴滴出行 ライドシェアサービス一部中止』)
ライドシェアの実現には、法整備が欠かせないね。
国内の会社もライドシェアに取り組み始めている
国内では、2024年4月に自家用車活用事業がスタートした。
(参考文献:国土交通省, 『自家用車活用事業の制度を創設し、今後の方針を公表します。』)
この事業によって、自家用車で人を送迎することが可能になった。
しかし、この事業は一部の地域や時間帯に制限されていて、一般ドライバーは、管理会社から教育や運行管理、車両整備管理を受ける必要がある。
管理会社による教育や車両管理があるため、実質タクシーと大差ないのが現状だ。
一方、今後制限が緩和されることも見越して、ライドシェアに取り組み始めている会社もある。
ライドシェアは、異業界や新興企業からの参入も多く、それだけ魅力的な市場と言えるだろう。
日本では、既にタクシードライバーの不足が顕在化してきており、ライドシェアの需要は高まってきている。
さらに、ライドシェアは、コネクテッドや自動運転と比較して、技術的なハードルはかなり小さく、法整備が進めば、一気に普及することが期待できる。
技術課題が少ないからこそ、利用者の使いやすさが他社との差別化に直結するね。
Electric(電動化)
電動化とは、脱炭素化に向けて、自動車を電動化していくこと。
ここでは、電気自動車の分類、歴史、普及する上での課題を見ていく。
電気自動車には4つの分類がある
ガソリン車はガソリンでエンジンを動かして走行するのに対し、電気自動車は、バッテリーから電気を供給して走行する。
電気自動車の主な種類には、BEV、HV、PHV、FCVがある。
HEV以外は、価格が高く、国内ではまだあまり普及していない。
いかに大衆の手の届く価格帯まで下げるかが普及のポイントの1つだね。
最近の電気自動車の勢いは過去一番
電気自動車の歴史は、1880年代まで遡る。
これまで、ブームが来て過ぎてを繰り返しているのが特徴。
過去を振り返ると、最近のEV化の流れは、今までで一番勢いが強い。各国でもそれぞれ目標を立てている。
他国と比べると、日本は控えめな目標となっている。
しかし、今後、日本経済の発展の余地が少ないことを考慮すると、日本の企業は海外市場への進出が欠かせない。そのため、日本の企業も海外の目標に合わせて、電動化に取り組む必要がある。
日本企業も海外企業と競いながら電動化を進める必要がある。
電気自動車の普及には課題がある
各国が電気自動車を普及させる上で、主要な課題は以下の4つ。
充電インフラについては、車両の充電速度を上げることも大切。
現状、バッテリーの充電には、早くても約30分はかかる。そのため、ガソリン車の充電を10分とすると、単純に約3倍の充電ステーションが必要になってしまう。
必要な充電インフラの数を抑えるためにも、充電速度の向上は欠かせない。
最近は価格について、ニュースなどで取り上げられることが多い。
中国市場では、BYDが低価格帯の電気自動車を販売し、これに倣う形で、テスラやホンダが値下げするという動きがある。
(参考文献:日経新聞, 『中国EVやまぬ価格競争、BYDが先導 テスラは追う側に』)
価格が低くなった車種が、日本に参入してくることも想定される。今後、海外企業に対抗するために、日本の技術レベルを上げることが急務だ。
電気自動車が普及した将来を見据えて、開発を進める必要があるね。
自動車業界のトレンドを理解すると、世の中の動きを掴みやすくなる
今回は、自動車業界におけるCASEトレンドについて、事例や業界構造も含めて解説した。
CASEトレンドのまとめ
Connected(つながる):自動車が様々なモノとインターネット接続して、双方向で情報のやり取りをすること。たくさんのモノと情報をやりとりするために、通信規格の統一化や部品の共通化が進む。
Autonomous(自動運転):車がドライバーの操作なしで自律的に運転する技術のこと。
自動運転を成り立たせる技術だけでなく、自動運転車向けのサービスも重要になる。
Shared/Services(シェア&サービス):複数の人が車を共有して利用するサービスのこと。
タクシードライバーの不足が顕在化してきており、ライドシェアの需要は高まる。法整備が進めば、一気に普及する可能性がある。
Electric(電動化):脱炭素化に向けて、自動車を電動化していくこと。
中国市場を中心に低価格帯の電気自動車が普及。海外企業に対抗するために、日本の技術レベルを上げることが急務。
今、自動車業界は様々な業界を巻き込んで大きく進化しようとしており、様々な業界で話題にあがっている。
新聞やニュースで取り上げられることも非常に多いため、自動車業界のトレンドを理解することで、世の中の動きを掴みやすくなる。
今後も自動車業界の動きに注目だね。
ではまた!